語り部は謳う/永乃ゆち
 

そうして語り部は謳う


燕に託した幸福の王子

お菓子の家の魔女の事

舞踏会に行く灰かぶり


夜毎夜毎に語り部は謳う


もしいつかこのわたしが

語り部になれるとしたら

貴方を想い謳うでしょう


言い出せない募る思いと

聞き出せない本当の心と

責められない優しい嘘を


夜毎夜毎に泣き崩れては

貴方を想い謳うでしょう


けれど必ずしもそれらは

ハッピーエンドにならず

灰かぶりは結局灰かぶり

シンデレラにはなれない

私は結局私のままでしか

貴方を愛せないのだから

私のゆく道をひたすらに

進むしかないのでしょう



そうして語り部は謳う


片恋に揺れる娘の息と

泣けずにいる雨の夜と

いつか来る晴れの日を


いつか来る晴れの日を



貴方のことを瞼の裏に

優しく焼き付けながら




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