土砂降り/HAL
わたしが哀しみを好むのは
ほんとうの哀しみを知らないからかしら
わたしが淋しさを辛く感じないのは
ほんとうの淋しさを分からないからかしら
外は土砂降りの雨
窓を叩く音でそれは分かる
でもどうして今夜みたいなときに
雨なんか降ってくるの
わたしは雨に打たれてないのに
あのひとはずぶ濡れになって駅へ向っている
いつしか覚えたいちばん近道の路地を抜けて
あのひとはなぜか傘を持って出てはいかなかった
少しだけ大きなバッグに自分の荷物を詰め込んで
ひとつの鍵をテーブルにそっと置いて出ていった
いつものようにドアはゆっくり音がしないように
いつものように閉めて
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