自殺ホテル/吉岡孝次
 
ドアを開け、廊下へ出ると、まずは向かいの部屋のドアを蹴破った。鉄製の扉はふっ飛び、だが音もなく倒れた。
 「お邪魔しますよ」
 おやおや、これは二十代の女性ではないですか。あなたも興味本位の、好奇心で泊まりに来た一般客ですね。いけませんよ。いけないお客様ですね、あなたは。逝きなさい。
 自分の部屋の左右隣りには同時に、今度は壁をすり抜けるような瞬間移動で到達した。夢なので、異なる空間に同時に存在できるのである。
 「どうだい、SFだろう?」
 何だ、どっちにもハンガーに背広が吊るされてるじゃないか。サラリーマンの出張かよ。「自殺ホテル」を何だと思っているんだ。何だその目は。おかしいのはそっちだろ。それに吊るすのも、背広じゃなくてさー。


 (そろそろ抜けるか)
 礼二は目を醒した。午前二時。起き上がり、洗面所でコップに水を注ぎ、飲んだ。ベッドに戻ろうとしたその時、ドアの方から風を感じた。振り返ると、蹴破られたとおぼしき鉄製の扉が音もなく倒れていた。
 「他殺ホテルへようこそ」

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