雨の跡/灰泥軽茶
道路を歩いていると
クワガタが一匹転がっていた
手のひらに乗せて眺めると
綺麗な姿は無駄がなく音もなく
生きているのか死んでいるのかわからないので
こつこつ指先で叩いてみると
ギザギザの歯をショベルカーみたいに
オートマチックな動きで
開け閉めして
また艶よく佇む
このまま持って帰ろうかなと歩きだすと
手のひらに
ぽつぽつと鼓動が打ちはじめ
黒い殻から温かさが伝わりはじめたので
やっぱりこっちのほうがいいかなと
湿る葉っぱ
木のそばに
ひょいっと空中回転させ草叢に返した
雨の跡から匂いがする
虫たちの声がする
季節が流れていく音が体の中で蠢く
夏がもうすぐやってくると言っている
そうして濡れた舗装道路を歩きながら
ふらりとコンビニに寄り
氷菓子を齧り
ゆっくりと指先から夏の予感を放出して
帰っていった
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