白いノートに捧げる巻頭詩/ii冊目/夏緑林
国道のアスファルトが車列もろとも溶け落ちてセンターラインの痩せ尾根が現れたなら
俺は歩いてみたい
両手で抱えた老木の幹が一瞬で消え失せてすべての枝葉が一斉に降り注ぐなら
俺は立ち尽くしてみたい
降りしきる雨粒が一斉に向きを変えて真っ直ぐにこちらへ向かってくるなら
俺はずぶ濡れてみたい
満員の通勤電車でひしめき合う人々全員に俺の顔と名前が知られてしまったなら
俺は逃げ出してみたい
いつか
世界中の電源が
一斉に抜け落ちて
そんな彼の妄想も記録もすべて失われて
発言する場所も機会も無いまま
あたし
立ち尽くしてしまうかもしれないけど
それでもノートがあるかぎり
ことばを選び続けていきたい
あたしどこまでも
ことばを探し続けていきたい
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