ソロ、テンペスト/マクベス
 
家になったことも誰も知らない。
安田は向かってくる波の押し寄せを、箱の中の残りの五本をゆっくり吸いきるまでじっと身を委ねて見ているようだった。
最後の一本を吸い殻にしてから一時間あまりが経っていた。
ポツポツと落ちていた雨は次第に顔に吹き付ける風と共に本降りになっている。
それでも安田は波の高くなってきた海を相変わらず見ていた。

ふと、何かを安田は呟いた。

そう見えただけかもしれない。立ち上がって口を動かしたようだったが荒れ方がいよいよ酷くなる海と風と雨の音に掻き消され聞こえない。

だが今度は確かに、暴風雨のなかで何かを何度も叫んでいる。

右手を頭上に突き上げた安田。

荒海はそれに呼応するように手前から水平線の向こうへと二つに割れ始めていった。雲の切れ間から解放された月の光が道を照らし出した。


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