忘却/HAL
ひとはだれでも忘れられていく
忘れないでと言われても
忘れないと誓っても
最初はその顔も憶えていたのに
少しずつ歳月が流れると
時の鑢に削られていくように
顔立ちは輪郭だけになり
いつしかその輪郭さえも
想い出せなくなり
そうしてだれかのことを忘れていく
そうきみも同じ
そう彼奴も同じ
そう彼女も同じ
みんな忘れられていく忘却のもの
もちろんぼくも同じ
すでにぼくがいたことさえも
もうだれも思い出しはしない
ぼくは いた
ぼくは いた
ぼくは ここにいたと
声を枯らして叫んでみても
その絶叫は闇にすらも拒否される
だれの耳にも拒絶されるだけのこと
でも嘆くことはない
きみが望みつづけた
ぼくが憧れつづけた
きみもぼくも
ただの無になるということだから
もちろん時代も世界も宇宙も
なにひとつ代わることなく動いていく
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