安インク氏の独白/高濱
安インク零して新聞紙の痣の上に蟻の集れる蜂蜜の匙
商工会議所の椅子に花籠置きてゐなくなり老婆は前世紀の夢を見む
葡萄樹に月光の降注ぎ汝との離別蝶が飛びて眸に呑まれゆく
引き裂かる二人の吾が 影絵の果物ナイフに躍るひとひらの走馬灯
生きてゐるのにゐなくて鏡像の花瓶と果実皿の上に載せし黒のポラロイド
長椅子に横臥せり影の彫像捻れたる襤褸の頭抱へて ひとさらひ
悪霊の影深くなり自罰の狂ひ肖像画には新しき冬の向日葵
「ぼくはあなたの奴隷であり、自由は何処にもありません。この足枷を外して下さい。」
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