「その海から」(71〜80)/たもつ
 
ちがいない
百葉箱を開ける
台風が音を立てている


75
 
送電線の中で
キャッチボールをする
刻々と夕闇は深まり
私たちはいくつもの
ボールを失ったのだった
何事にも負けない、
そう決めた時から
アジのひらきが好物となり
ホッケもたくさん食べた


76

虹の真下で受話器を取った
誰かの息継ぎだけが聞こえる
私は海について
知っていることのすべてを
話すように努めた
昼休みの造船所から
人が出てくる


77

前線が停滞して
私たちのトビウオは
飛ぶべき空を失った
バスに乗って行こうか
掌と同じ色のバスに乗って
話が
[次のページ]
[グループ]
戻る   Point(6)