幽霊/たもつ
 

上りのエスカレーターに
幽霊が立っていた
ぼんやりとネクタイを締めて
小さな咳をしていた

駆け上がる人が
春のように
体をすり抜けていった
見えない、
それだけで幽霊だった

上の階につくと、今度は
下りのエスカレーターに乗った
おそらく、その繰り返しで
幽霊の一日は過ぎていく

そして今日も私は
誰かの記憶の中で
咳をしているだろう
あやふやになった姿かたちで
それはまた
幽霊とも違うだろう
 
   
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