木/山人
木である私は風を感じている
昨日の曇天は特に蒸したが
今はどうだ
沢筋からの一縷の風が
梢をこすり私の腋の下を涼やかに通り抜けていく
かつて私にも過去があった
たとえば私の前で作業をしている男
これが私であった
男は年にしては大ぶりで
体躯の大きさからゆえか
どんよりとし大きな動きで活動している
時折腰を伸し
声にならぬ声を発し
しかし、他者の前なので
漏らす程度の小声だ
この大ぶりの男
私である、
私は木になりたかった
思考することに疲れていた
めんどうくさい脳など要らなかった
意思に反し、勝手に何かが描写される
気ままに放映される映像
そ
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