豆腐の不在/
たもつ
今日、豆腐は
朝から不在だった
テレビの画面でも
新聞や本などの印刷物でも
その姿を見かけなかったし
豆腐、という言葉すら
出てくることはなかった
妻との他愛もない会話にも
豆腐に関する話題は
何ひとつとしてなかった
寝る前にふと
豆腐のことを思い出して
僕は冷蔵庫を開けた
何をしてるの、
という妻の問いかけに
何でもない、と僕は答え
扉を閉めた
十数年いっしょにいても
解りあえないことのいくつかは
お互いすでに諦めていた
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