甘いウェハースのように、ほろ苦く。あるいは、循環する名付け直された世界について。/いとう
 

 
この提示された世界は、最終連、「私」という存在によってダイナミックに循環する。透明人間の「世界」が私の「世界」と重なり、視点が転移し、それぞれが鏡面のようにそれぞれの世界を映し出す。それはすでに二つの「世界」ではなく、循環しあう二つの世界によって構築される一つの世界として名付け直されている。その中で透明人間は、存在していないのではなく、非存在として存在している。「消えていった」は「そこにいない」ではなく「そこではないどこかにいる」と同義だ。そしてその中で「私」は、存在しているという名によって存在していない。鏡面を持つ世界の中では、存在するということは「そこではないどこかにいない」と同義となる。この「世界」ではそのような循環が宿命として行われ、この循環はタイトル内の「と」という助詞一文字に集約される。「透明人間と」。空白のページの中で、透明人間と私は、別れ続けることによって循環し続ける。






初出:「いん・あうと」10月号
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