出入国/三原千尋
ゆるせないものが多すぎて困るんだ
面取りを忘れた大根の
尖った角にさえ傷つく
そんな自分の弱さやがさつ(・・・)さにさえ傷つくものだから
血はどんどん流れてきりがない
からだの中を飛び出した血潮は
ほろほろともろく
あるいはねばねばとしつこく固まって思い通りには行かない
自分から出てきたもののくせに
からだと外とをつなぐ空港では
不法入国者は許さんぞと
白い兵隊の群れがふくらんで出入口をふさぐ
清潔に四角く光っていた空港は
もはや痛くてかゆくてぱんぱんに腫れている
飛び出した血潮は外の世界を
青い空も
茶色い畳も
もはやほろほろと煮崩れている
清潔に四角く光っていた大根さえも
汚しつづけているというのに
兵隊のスクラムはほろほろともろく
あるいはこりこりとしつこく
赤い血潮のことなんか忘れていきり立つ
私も忘れ上手になりたいなと思いながらつと立って
血しぶきを拭き片栗粉を溶きはじめる
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