『夜のレモン』/川村 透
夜のレモン。
堤防の上で君と、レモンと
夜のレモン。
夜のレモンを齧る、少し寒くなってきた。
夜のレモン、なぜこんなにも、ごつごつと、緑色で、
死体のまぶたのような、ぶ厚い皮でおおわれているのか?
夜のレモン。
夜のレモンの中には、
母のやさしい暴力に守られた海がある
うみ、の、果汁がぶあつい皮ごしに、たぷん、と泣いた。
夜のレモン。
目を閉じると、魚の匂いがするよ
深海で、天使の溺死体とすれ違う
清らかな青銅色のほほ、魚の瞳をしている君は【innocent】
夜のレモン。
僕は祈るように君を盗んだ。
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