舞台/永乃ゆち
 
そして幕が閉じる


舞台化粧を落とすと誰が誰だか分からない

勇敢な騎士は土曜の朝に生ごみを出す係りらしい

美しいお姫様の鼻はとんがっていつも人を見下している


けれど一番分からないのは自分自身が何であるかなのだ


勇敢な騎士にも美しいお姫様にもなれないでいる

ただ舞台のそでで劇の進行を見ている(見守っている、ではなく)

何者にもなれずいるから自分と言う者になろうとした


けれどますます分からなくなってしまった


一生役者でいたい

自分を知らないままに

一生孤独でいたい

誰にも邪魔されずに


私が舞台化粧を落とす事はないのだろう
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