はがゆい/岸かの子
 
さざ波の僅かな飛沫さえ愛おしい
春から初夏への道のりは
小舟で海を渡る様に
儚くも危なげなモノ
飛べなくなったイカロスが クス、と笑う
白のシャツと海と小さい波が
あなたには とても似合う
一枚の絵のように
海辺に立つあなたは
輝かしい光に包まれて
無限の微笑みを届けてくれる

生きてゆく喜び
何にも代えがたい心の叫び
さざ波の向こうから夢へといずるあなたは
顔も、言葉も、囀る口元も懐かしい
あなたの名を呼べば身体も温まり
私はあなたに 
抱かれながら寿ぎの言葉を羅列しゆく

さざ波から産まれたあなたを強く抱いたら
泡のように弾け 飛沫をあげた
弾けたあなたを掬い取り私の深い処へと弄りよせる
同じ言葉で歓喜の声を出せば
私も弾け 空へ飛ぶ
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