object/水町綜助
あのあと
春へ向かった傷あとが
まだ桜色なので
熱をもって
おぼつかない
唇の舐めかたが
やさしいのか
つめたいのか
この生暖かな季節ににた
この体温が強く
開くかもしれない
縦筋のくち
*
一匹の
猫
晴天の下で抱かれた
鳴き声は高らかに
高らかに三階から
天井の空を見上げるように
しろいのどもとを晒し
水溜まりのように
春の青に溶け込んで
もう行き先がわからなくて
遥か、という言葉が
身に
つまされるように
*
「いきてしまった」
その言葉
それぞれの母音に綴じられた
点と点
そのあいだ、
指で開くとは
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