湖/永乃ゆち
 
冷たい湖の中をただひたすらに泳がせて欲しい

何処にも始まりはなく何処にも終わりがない

水草に足を取られて沈んでしまうまで

ただ泳がせてほしかった


そんな事を思いながらあの日水面を見つめていた

大した話じゃない

母親が死に小さい頃離れ離れになった父親の元へ

しわくちゃの祖父の手を握り締め列車に乗っていた

母が海の人だとすれば父親は湖の人だろうななどと考えていた


顔も思い出せなかった「父親」は酷く汚く見えた


私は私の運命を僅か14歳で知る事になる

連れて行かれたのは春を売る路地裏

私はそこで女になった




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