深海/飯沼ふるい
 
手のひらは差し出した
昨日へと潜水し
やがて沈降に向かう
腐った魚を
捕まえようと


そこは夢精の海
繰り返される
日々が溢していった
鈍い光の残像
甘い果肉の歯触りと
悲哀のうねり
それらの絡まった
にんげんが
始まる為の
不快な温もりの海
浸される


魚は鱗を剥がしながら
いつかあったはずの
いくらかの時間の高度を
下り続ける

したへ
したへ

 したへ
  したへ


微睡みの流体では
溺れて死ねない
魚はもう溶かされた肉片で
それでもまだ
志向する、底へ

 砂の味
 潮の味

差し出した手のひらは
いつか爪先から崩れ始める
それでもまだ
溺れて死ねない

永遠と沈降する魚
永遠と腐り続ける手
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