失色症/和田カマリ
 
暗闇の中に
長い間いるせいか

と言う色を
忘れてしまった

他の色は
心もとなくも
なんとか
思い出せるのだが

どうしても
赤だけは
イメージできない

薔薇の赤
サルビアの赤
口紅の赤

もがけばもがくほど
白黒2色の
版画絵のような
濃淡でしか
思い浮かばない

林檎の赤
トマトの赤
夕陽の赤

赤いものの名は
呼ぶ事ができても
肝心の色そのものを
忘れてしまった

それどころか
だんだん
赤いものであれば
その形すら
覚束なくなってきた

そしてそれは




だんだんと
感染していく予感

死に至る病気
そのものではないが
世界の暗闇の中で
消えて行く僕の彩

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