少しと少し前の話/石川チヨコ
彼女を少しと呼ぼう
細い、細い煙草を吸っていた
私が知るそれより一回りも細い煙草
少しはそれに相応しい指を持っていた
私たちはジンとコーラと煙草があればどこでも幸福だった
いたずらに8:2で割った濃い、濃い飲み物も
少しにもらった細い、細い煙草は私の指には不釣り合いであったが
少しにもらった煙草はとても、とてもおいしいものであった
それから少しはいなくなった
それは少し前の話
少しの指に相応しい細い、細い煙草
あれ以来煙草を吸ったことはない
知っているから
少しのいないところで吸う細い、細い煙草はちっともおいしくなくて
ただ不快感を与え健康を損なうだけの有害物質ということを
それでも少しの吸う銘柄を見つけては手に入れようとする
戻る 編 削 Point(5)