血まみれの夜/岡部淳太郎
 
帰り道 いつも通る住宅街の
薄暗い側溝の上に
夜が血まみれになって横たわっていた
誰かに捨てられたのか この世の
仕組みから外れて落下してしまったのか
夜はその黒い身体のところどころに
赤い血を滲ませて
静かに息をしていた
夜はアメーバのように瞬間ごとに
微妙に形を変えながらそこにあった

私は血に濡れたままのそれを拾って
ひとりきりの自分の部屋に持ち帰った
夜は私のそんな行為に逆らう様子もなく
ただ黙って暗いだけの姿のまま
私にさらわれていった
夜が物体(ぶったい)として落ちている世の中。
そんな世相は見かけ以上に
複雑なものに違いない
そうは思ったも
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