ドーバー海峡の悪戯書き/天野茂典
そこはドーバー海峡だった
ぼくたちはリヨンまでカーフェリーでゆくのだった
ぼくはその船のなかでコロンビアの船乗りさんと
仲良くなった ふたりはビールを飲みながら
ざつだんした 何についておしゃべりしたのかもう忘れてしまったのだが
背の低い初老の船乗りさんとは相性がよかった
船はほとんど揺れなかった ぼくたちはバーの止まり木に足をやって
立ちっぱなしだった 船乗りさんはセーラー服ではなかったが
すぐそれと分かる風体だった 長年の潮風が船乗りを語っていた
ぼくも船乗りさんもつたない英語である
だが同意したり 笑ったり おたがいに褒めあった
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