幼くして逝った魂によせて/寅午
 
別れの日
少年は幼い女の子ののる三輪車をおした
これが最後だと、十歳にみたない少年にもわかっていたから
三輪車は石ころ道をガラガラ音をたてて走った

三月も終わりのころだった
春をおもわせる日ざしがふりそそぎ
野山に若芽をめばえさせようとしていた
道に、女の子のケラケラ笑う声がひびいた
女の子のよろこぶ声がうれしくて
いつになく少年は力いっぱい三輪車をおした
胸に熱いものがこみ上げ、涙が出そうになるのをこらえて
少年は三輪車を力のかぎりおした

女の子は、つぎつぎと後ろへ飛びすぎる景色に歓声をあげ
目のまえに、キラキラ光り輝く光の国をみていた
少年は地べたばかりをみつめて
女の子がみていた光の国をみていなかった

あれから、長い歳月がながれ、少年は年をとり
いまむかしをおもい
あのとき女の子がみていた光の国をみている
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