親愛なる声/HAL
とうとうきみは声を出してくれなくなったね
ぼくが死ぬまで一緒に声を聴かせてくれるかと
想っていたけれどやはり来る日は来るんだね
きみはきみの生んだ会社の
50周年を記念して誕生したものだった
ぼくがきみを選んだのは丁度30年前だった
ある権威ある雑誌はきみでなくきみの同胞を
勧めていたけれどぼくの耳はきみだと告げた
以来いくつかの転居でもぼくはきみだけは自分で運んだ
きみはレコードと云うアナログ時代からCD時代へと
移るなかでもぼくの望む様々な声を出し続けてくれた
30年間一度だけパイロット・ランプが切れただけで
故障することなくぼくに声を聴かせてくれた
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