ふりだし/百瀬朝子
 


押し流されて
たどり着いた
冷たい砂が
わたしの
あたたかいところを
犯してゆく

  追いかけっこはやめにしよう
  肩の力を抜いて
  寄り添って
  たたずんで
  苦しいときも
  悲しいときも
  見えない星を眺めよう

寒さが尾を引く
左手は掻き分けて
押しのけて
押し寄せてくるものを受け止めて
春の雪に心を溶かす
二人がけのソファーは
すこし狭い
ほうがいい

  くっついていればあたたかい
  火傷さえも証しにして
  傷つけあっても大丈夫
  ふりだしにもどるだけ
  追いかけっこがはじまるだけ

積み上げてきたものが
根元から崩れてしまった
大切なものほどもろく
そのことをうらんだ

約束は果てなかった
やり直すにはちょうどいい
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