春の息子/ゆるこ
 
折り目をつけて伸ばした四肢の
やわらかな月日を
わたしは今、眺めている



この街にきてから買ったIKEAの羽毛布団は
君を隠すにはあまりに大きく、窒息しかねないから
わたしは毎晩空気を口に含みながら
君の空間にだけはきつづけていました

やがて、布団とおなじ茶色に染まりはじめた頃
私はやっと悲しくなって
ついにおいおいと泣くのでした

(きみは笑います。鈴の音のようです。



春の陽気は境界線を喰らってしまうので
とても寂しいです
だから私のポケットにはいつも
インクの切れかけたマジックが寝そべっています

きみの、伸び切った柔らかな四肢は
緩やかな月日と共に
今、わたしを揺らしてゆくのだけれど、
どうしても触れられない
その焦燥感で
わたしは溶けてしまいそうです



(きみはそうして寝そべります。少しだけ涙をこぼしながら。


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