許諾/HAL
られる
ぼくは何も求めず雨を待った
ぼくは何も救わず雨を待った
ぼくは愛も欲せず雨を待った
希望も夢さえいらなかった
過去を懐かしがらなかった
未来に期待も抱かなかった
戒律に脅されなかった
快楽に誘われなかった
欲望に溺れなかった
高潔に怯えなかった
淀まなかった
沈まなかった
徒党を組まなかった
孤独を恐れなかった
否定に抗った
肯定に頷いた
その恩寵かの様に
降る雨の一雫によって
ぼくを形成している60兆の
細胞膜がひとつずつ失われ
細胞核がひとつに溶け合い
そしてひとつの細胞だけのぼくになり
そのために21,900日待ちつづけた
雨がいま洪水になる為に降りつづけ
その雨雫の一滴となって甦ることが
やがてぼくに許諾される時が訪れる
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