心拍夜光/
 
夜は赤いようだ、犬に似ている。
船出よりもはやい分娩を鼓動が執行する。
かの女の目先のカーテンコールが、預言者の予兆を黒板に書き記す。
ひとつ、はない。ふたつ、もない。
無言の胚胎、ヘルメスの鳥、突き刺さる静か。
放課後はだれも知らない。

膚に水銀を垂らし込んだ蛆色のつま先に抱擁はない
ちんばのあいつが杖を血に突く
サンクチュアリ、星はまだ出ていない洞穴の空の奥底
単眼おんなの心臓は半分だから鼓動の音は光り続ける
夕暮れの凄惨な中でも裂帛らしい足音は歩み続ける
だれしもが夜 瀬もなく

バラバラになったコンパスの軌跡で時間割を確認している。
補導されてしまうと逃げ出したシミの群れにはもう会えないし会わない。
暗がりに、
暗がりに行く。
暗がりたい、とおんなの光。
洞穴になった眼帯の下には心臓がある。
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