生きている/水瀬游
生前は
それは腕の立つ人であったそうだ
また 根っからの旅人であったという
世界を旅して
知らない土地で
知らないものを見るのが
彼の生きがいであったそうだ
今となっては
生前と言っていいだろう
足は鳥のように痩せて
腕もゴボウのようにやつれ
寝返りをうつことも叶わない
寝たきりの老人
だらしなく口を開き
機械によって
ただ無為に生かされるだけの余生
真っ白なベッドの上で
静かに終わりを待つだけの
そこに何の意義もなく
何かを考えることもできず
ただただ虚空を見つめている
かのような そんな姿
私は見た
かの瞳の奥に
瞳孔の奥
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