訣別/HAL
月が消え去った
その予兆はあったのに
みな新月の日だと想っていた
しかし 何日待っても
満月も
上弦の月も
下弦の月も
三日月も
夜空に現れなかった
月面の裏に存在したモノリスが
地球の墓碑だと気づいた人間は
たったふたりしかいなかった
月はこの星の
衛星でも
陰喩でも
直喩でも
譬喩でもなかった
月は46億年間
この星を見守る女神として
存在してきたのだった
しかし もう人類の存在する泥団を
月は見限ったのだった
月は それまでの軌道から外れ
遥か遠くの次の次の宇宙を目指して
旅だっていった
別れの挨拶すら人類には贈らなかった
そしてベートヴェンの月光ソナタも
もう聴くことはできなくなった
作者より
モノリスとは《2001年宇宙の旅》に登場する謎の石柱状の物体であり 、ふたりの人間とは《2001年宇宙の旅》の監督スタンリー・キューブリック氏とSF作家アーサー・C・クラーク氏を指します。
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