カイダン/リンネ
 
能なことはなにもない。後ろ向きに階段をのぼるなら、それは何かの寓話にもなろうが、まったく普通、まったく当たり前に両の足を交互に一段ずつのぼっているこの男になんの物語があろうか。目筋にだらしなく伸びた涙の跡だけが前ぶれであったが、その跡でさえもうすっかり消えて乾いてしまった。Kは階段をのぼっている。Kは階段をのぼっている。Kは階段をのぼっている。Kは階段をのぼっている。Kは階段をのぼっている。Kは階段をのぼっている。のべつ幕なしにのぼりつづける。こんな男に階段はいらないだろう。すなわち、Kはのぼっている。Kはのぼっている。名前だってなんでもいい。Mはのぼっている。佐藤はのぼっている。本多はのぼっている。無いのもいい。のぼっている。のぼっている。のぼっている。こんなのもありだ。私はのぼっている。私はのぼっている。私はのぼっている。私はのぼっている。私はのべつ幕なしにのぼっている。







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