闇の語り手/いねむり猫
夜半の犬よ
おまえは 闇にまぎれて 旅を続ける
人々が 自分を演じることに 疲れ
一人 目を見開いて
静寂の闇を 探っている時
蒼い星空と黒い山脈の境界から にじみ出すように
ヒタヒタと 足音を殺しながら 現れる
決して口にしてはならない すべてを終わらせてしまう言葉
その臭いや気配を 鋭く避けてきた 思い出してはならない 闇の記憶
美しい川面に 写し出してはならない おまえの素顔
夜半の犬は 地鳴りのように 低く唸りながら
生き返り始めた闇たちに 見つめられている
その人の 背を
軽く押すのだ
私は
おまえがその背
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