二重蓋の圧力鍋/殿岡秀秋
 
は触る気になれなかった

田舎にいって古い空気銃を撃ったときも
ぼくは一度撃たしてもらっただけだ
二人が神社の階段で空き缶を狙っている間
ぼくは裏手の林で空想に耽っていた

ぼくの胸の圧力鍋は
二重の蓋でふさがれて
ふつふつと煮えたぎる想いが
いつも鍋の中でとろとろ煮えていた

蓋が外れたのは
体つきに差がなくなった十代の半ばで
二人の兄が抑えつけることはなくなった

重しはなくなっても
ぼくの胸の底に
とろとろ煮えているものがある
いやなことでも
つらいことでも
そこに投げ込んで
溶かしたり
柔らかくしたりして
スープにする

からだに熱がつたわって
新たに
蓋をしようとする相手に向かって
ぼくの眼は
大きく開くのである


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