二重蓋の圧力鍋/殿岡秀秋
 
ぼくは沸騰するスープである
ジャガイモが崩れていく
ぼくは真っ赤に茹で上がる毛蟹である
苦しさに前脚を伸ばして泡を吹く

底から熱せられていて
二重の蓋がかぶさる
重くてもちあがらないで
細い口から勢いよく出る水蒸気

兄が二人いてぼくは末っ子
電機掃除機がはじめて家にきたときも
兄たちが畳に掃除機をかけた後で
ぼくが試しにやってみようとすると
おまえは使ってはだめだ
と次兄がとりあげる
長兄は唇をまげて笑いながら
黙ってみている
ぼくの不満は出て行き場がなかった
数日したら飽きて
ふたりとも見向きもしなくなった
新品の掃除機は手垢に汚れていて
ぼくは触
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