甲板の花/佐伯黒子
〇さっき
甲板でその花は無理やり咲いていた、それを、わたしはみていて、本当に生きていたいのだなあ、と、潮風やしぶきや嵐にさらされても、ひとりぼっちでも、咲くんだなあ、それを、わたしはみつけることができたなあ、とおもった。それで、銀行には今朝行って、預金をぜんぶ下ろしてきたよ。
▽むかし
おねえちゃんの短歌がすきだった。決して家族に見せようとしなかった、ことばの配列が、まるでひみつの暗号みたいにおもえていたし、彼女の目でうちの生活はそんなふうに見えているのだなあという気づきが面白くて、こっそりさがしては読んでいた。妹が死ねばいいのに、からはじまる歌が、お気に入りだった。
□いま
預
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