題詠十首/古月
今しがた風呂吹き大根炊く母がとろとろ火かけ黒き碑
点滴の音やかましき隣には空いた花瓶を洗う細君
気散じに蘇州夜曲を口遊む火吹き男の碧き虹彩
無花果のひとつ転がり胞衣壷に翅を揃えて番う蝶々
点鬼簿の母が愛したスミノフに細雪凍む東京の冬
文芸座でひとり殺人狂時代観ていた女が殺し屋でした
枕辺に夜驚症の羊きてあか児みどり児しら児守する
深海に棲む奇魚になりたし透明なゼラチン質の魂ひとつ
音程の乱れる窓に猿が来て兄の薬を隠してしまう
卓上に伏せたカードの赤色が黒ずんでいるきょう黒鳥忌
戻る 編 削 Point(8)