祈り/瀬崎 虎彦
 
 クシュっとレタスを潰したような音とともに、その小動物の頭蓋は砕けた。激痛にもだえ四肢で宙を掻いているが、苦痛を悲鳴にすることは出来ない。声帯はもはや機能していないのである。放射性物質を含んだ雨が降っている。雨をよけようとその猫は車両の下に入ったのであった。車が危険だということを誰も教えてはくれなかった。世界は数ヶ月前から始まったのであり、今の今までは孤独だったのであり、今は世界に別れを告げようとしている。塵や油が浮くアスファルトの上で、もがき続けるその生命の毛皮は汚れていく。圧倒的な力で粉砕された頭蓋に比して、しなやかに運動する残りの部分のたくましさは、その小ささを別にして、躍動感に満ちているが
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