航海していた/佐伯黒子
いつも風上に身をおいて
あなたは、だいじょうぶですか
と問う ぼく
気高いきみでいてくれといわれた日
そうありたいといちばん願っていたのは
たやすい
いやいや 余裕ですよ
航海していた
熱く重苦しい海の上だった
紺色のコラーゲンがずるずるとぼくをはこび
だれもいない場所へいくことが
気高さであった
なるほど
でもそれ 普通ですよ
航海していた
一日に二千通のメールを削除した
ゴルジ小胞の出芽と融合を繰り返し
冷たいピペットを握りしめることが
気高さであった
おもしろい
いま何か 言いましたか
キャットウォークから
ぶんとおとをたてて落ちてきた
風下の船たち
彼らは自らが沈没したという
ぼくの足元に沈没したという
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