失せもの出ず/木原東子
 
ャス
    返してほしい
本物の金の猫、のブローチ、ダイヤの瞳
    バスの窓から逃げていった

うん、いまだに残ったものもある
この甲斐無き命、厄介なご亭主、消したい記憶も
このずぼらな生活、それにまつわる無駄買い、貰い物、おまけのカップ

中途半端な仕事、捨てそうで捨てない
自由という夢、掴めるのにつかまない
真理の追っかけ、理解できなくても追っかける

小さな古い時計のある家で
地震の不安とともに
宝子たちを護る覚悟で

世界一小さな歌に押し込んでみる
雨戸を叩くなにかの音を聞いてみる

ひょっとして君ならいいのに、本当に喪ったもの

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