捧げられる命/いねむり猫
 
顔を近づけても 聞こえないほどのかすかな寝息

患者たちが ひしめく病室で 
やっと仕事の手が空いた若い看護婦が 
機械の中に埋まってしまった老婆に声をかける

身動きもしなかった老婆の目が 薄暗い病室で 花のように開いて 
笑顔の返事が帰ってくる

「ああ 今日は遅かったね 夕飯ができているから 早く食べな」

「はい ありがとう いただきますよ」

「ああ ああ たくさんおあがり」


大きな繁華街の 暗い路地の奥 
古くから開業している病院には 
たくさんの命が 
葡萄の房のように
捧げ物のように 
納められている

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