秘すれば花/HAL
ずっと考えつづけてきた
この街にやってきてもう何年になるだろう
親しい知人も隣人もたくさんできたし
顔馴染みの飲み屋もいくつかできた
でも時々その飲み屋であのひとのことを聞く
その噂話でさえもうぼくには辛くなった
そのひとにはもうフィアンセがいる
それをぼくはそのひとから聞いてしまった
だからぼくは自分の身勝手な気持ちだけで
ぼくの心は伝えてはならないと自戒した
確かにこの街で出逢ったひとは
誰もが佳いひとで愉しい時間も過ごせた
でもやはり潮時だと想う
心残りがないかと言えば嘘になるけど
あのひとに別れの挨拶は一切しないで
ぼくはこの街から
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