まだ 朝のやさしい光が/いねむり猫
 

まだ 朝のやさしい光が
町にあふれるまでには 時間がある

薄闇の中で 白い呼気が 
のろしを上げている

白いのろしは まだ街灯が灯る 細い路地を抜け
 古びた木造アパートの鉄階段を駆け上がり
 小さな庭を抜けて 
 無骨なコンクリートの建物へ吸い込まれていく
 

少年の心臓は強く 血流は全身を一瞬で巡る

 良質な筋肉が付き始めた脚を 骨がきしむほど踏みしめ 

 新聞の重みで肩に食い込んだ厚い布地を 
 細くしなやかな鎖骨と筋肉が 跳ね返す

老朽化したアパートの最上階に駆け上がるころ
川沿いの下町に 光が届き始める

 少年の瞳は その景色
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