バレンタインデーの思い出/小川 葉
かまいません。どうかよろしくお願いします。お姉さんは喜んで黒山の中からチョコレートをひとつ買ってきてくれた。受け取ると、ニヨニヨ私の顔を物欲しそうに見ている。
私は不思議に思ったのであるが、しかし感謝した。そうして、私は言った。ありがとうございます。学校の同じ学部に好きな人がいるのです。本当に、助かりました。
結局その彼女にはふられた。あるいはあのお姉さんにあげていたら…と、今となって思うものであるのだが、その時私は若かったのである。お姉さんの気持ちなんかわからなかった。今もあの時のお姉さんの曇りかけた顔と、それからぱっと花が咲いたように、頑張れよ!と肩を叩いてくれた、優しさを忘れない。
戻る 編 削 Point(4)