経過/salco
全身麻酔の胸がメスで開かれ
肋間がスペーサーで広げられる
心臓に手が差し入れられる
教授クラスの執刀の下に
横たわるのは天皇であれ
一人の小さな老人の体だ
陛下も年を取った
平成になって四半世紀だ
あれだけ毎日気遣われながら
老病からは免れられない
体調を崩す頻度が増している
今は
術後の疼痛と衰弱を耐えておられる
こんな春めいた一日には
雅子さんも
気ままに出歩きたいかも知れない
その齢ならば
共働きの公使か室長クラスか
寿退省の専業主婦か
小さなショルダーバッグひとつで
ショッピングしたり
友達とお茶したり
やわらかくふやけた雑踏を
空を見ながら歩いたりしたいだろう
誰にも振り向かれず
娘のお迎え時間まで
大きな宮殿に住んでいても
どれだけ配慮に囲まれていても
生活懸念が微塵もなくとも
人は皆、檻の中だ
人生という監獄
自分という独房の中
作り変える事はできない
何処にも行けない
こんな日にはただ
新しい季節の歓びが
胸に沁み入るだけ
春のくすぐったさと光の郷愁が
胸に触れて来るだけ
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