美香/「Y」
ワンルームのドアをノックする音が聞こえた。
濡れた髪をタオルで拭いていた昌は、動作を止めて、反射的に壁の時計を見た。夜の十一時だった。
ドアスコープの向こう側に、白いフェイクファーを纏った見知らぬ女が立っている。
まるで、昌がそこにいるのがはっきりと見えているかのように、彼女はドアの外から真っ直ぐに視線を投げ返してきた。
栗色の長い髪。華奢な手足は、まるで少女のもののようだった。
関東地方は昨晩から寒波に見舞われている。
ドアの向こう側で、小さく飛び跳ねるように身体を揺らしながら白い息を吐いている女の様子に、なぜか痛ましさのようなものを感じた昌は、反射的にドアを開けてしま
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