黒い海/真山義一郎
 
まだ幼い頃
家族で夜の海へ
泳ぎに出たのだろう
若い夏草のような
家族で
私は玩具のように
小さな浅黒い生き物
だった

海もまた
生き物だと
生々しく感じたのも
それが初めてだった
のかもしれない

地面から
ごご、と
鳴る波は
月明かりに照らされた
浜辺だけが
この世のすべてではなく
ずっと奥の
闇へ
連綿と
繋がっていることが
地球儀の上だけの
夢想ではないと
誰かが言い聞かせるように
静かだった

父や兄ちゃんたちは
酒も入っているのか愉しげに
黒い海へと入っていくのだが
一人一人と
海へ呑まれっきりの気がして
しかし、
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