眠らない街の眠らない人々/ブライアン
 
 仕事が遅くなった。金曜日の夜の電車は酒臭かった。渋谷始発の電車に乗り、席に座った。いつもならすぐに眠りに落ちるのだが、あまりに瞼が重くて眠れなかった。目をこすっても瞼の重みは消えない。隣に座った大柄な男は、いびきをかいて寝ていた。両手は両脇にだらんとしている。アルコールのにおいが鼾からした。
 車内アナウンスは、出発が遅れることを伝える。扉側に寄り掛かって話し込んでいた男女の二人組は、忌々しそうに、待っている必要なんかないよ、と言った。地下鉄のホームへ降りる階段を走る群衆の音が聞こえる。二人組は窓側から中央へ押し込まれ、男のほうが女のほうの腰に手を回した。女は、お酒臭い、と言った。
 正面の
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