プリズム系地獄/鯉
かの唇は傷だらけになった。なくなってしまわないようにそっと指でなぞると、金属音を嘶かせながら唇はふるえた。指は鈍く光っていた。
くたばれと繰り返して土塊になった腕をコンパスで刺しても意味はなかった。世界が硬質化している。HBの鉛筆の切っ先のように鋭く、串刺しにされていた。穴の開いた腕に水滴が溜まっている。水滴をなめたら血の味がしたけれど、これは血ではなかった。口の中をまさぐるとどこもかしこも切れていて、透明な血がずっと流れ出していた。色を失った鉄はとても冷たかった。
変色する坩堝の底にはだれかがひとりだけ埋葬されている。アルビノのだれかは目を閉じていてだれかにはもう違った色はなかったし、違えることもないだろう。坩堝は女の手足で構成されていて、四六時中回転しながら咲いている。だれかの埋められた上で女は必死にステップを踏み、その棺桶と土を取り払おうとするが、だれかを包んでいるのはいずれも女の手足だった。流線型の光が乱反射する、瞼はすべて閉じられてもう光は一色しかなかった、泣き続ける女の涙の色の変わりようはそれなのに兆を超え、落ちてなお馬鹿笑いのように変幻を止めることはなかった。
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